以下にある (例1) は実行可能なのですが、(例2) がコンパイルエラーになる理由が分かりません。
(例2) も、「let mut func」とすればコンパイルが通るのですが、そうすると、逆に (例1) で「mut」が不要な理由が分からなくて悩んでいます。
すみませんが、ご教授くださるよう、どうぞ宜しくお願いいたします。
(例1)
fn main() { let str = "string".to_string(); let mut count = 10; let func = || { count += 1; std::mem::drop(str); }; func(); }
(例2)
fn main() { let str = "string".to_string(); let mut count = 10; let func = || { count += 1; // std::mem::drop(str); }; func(); }
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結論から言うと、例1と例2のクロージャが実装しているクロージャトレイトの種類が異なるからです。
- 例1のクロージャ:
FnOnce
トレイトだけを実装している - 例2のクロージャ:
FnOnce
トレイトとFnMut
トレイトの両方を実装している
FnMut
トレイトを実装するときは、そのクロージャに束縛されている変数(func
)にmut
キーワードが必要になります。
なぜそうなのか、もう少し詳しく説明しましょう。
クロージャは「無名関数」と「捕捉した環境」からなるデータ構造です。Rustではクロージャを作る構文(|| {..}
)は糖衣構文になっており、コンパイラはそれに対して以下を自動生成します。
- 環境を表現するための匿名型(匿名の
struct
) - 環境に対するクロージャトレイトの実装。無名関数はそれらのトレイトが要求するトレイトメソッドとして実装される
匿名型について、たとえば例1のクロージャについて考えてみましょう。
rust
1 // 例1のクロージャは`count`と`str`にアクセスする 2 let func = || { 3 // += 演算子(std::ops::AddAssign)は&mut countを要求する 4 count += 1; 5 // dropはstrの所有権をとる 6 std::mem::drop(str); 7 };
この場合、以下のような匿名型が作られます。
rust
1struct FuncEnv1<'a> { 2 count: &'a mut i32, 3 str: String, 4}
クロージャトレイトは、無名関数が環境をどう使うかによって、以下の3種類に分けられています。
FnOnce
トレイト(ドキュメント):
- 無名関数を表す
call_once(self, args: Args)
メソッドの実装を要求する - このメソッドの第1引数は
self
なので環境の所有権をとる。そのため1回しかコールできない
FnMut
トレイト(ドキュメント):
- 無名関数を表す
call_mut(&mut self, args: Args)
メソッドの実装を要求する - このメソッドの第1引数は
&mut self
なので何度でもコールできるが、環境の内容を変更することがある FnMut
トレイトを実装するには、FnOnce
トレイトも実装しなければならない
Fn
トレイト(ドキュメント):
- 無名関数を表す
call(&self, args: Args)
メソッドの実装を要求する - このメソッドの第1引数は
&self
なので何度でもコールできる。環境の内容は変更しない Fn
トレイトを実装するには、FnMut
とFnOnce
トレイトも実装しなければならない
最初に言ったとおり、例1のクロージャと例2のクロージャでは実装しているトレイトが異なります。
- 例1のクロージャ:
FnOnce
トレイトだけを実装している - 例2のクロージャ:
FnOnce
トレイトとFnMut
トレイトの両方を実装している
このことを確認してみましょう。例1を以下のように書き換えます。
rust
1// 例1の修正版 2 3// この関数は引数にFnMutを実装するクロージャをとる 4fn take_fn_mut(func: &mut impl FnMut()) { 5 func(); 6} 7 8// この関数は引数にFnOnceを実装するクロージャをとる 9fn take_fn_once(func: impl FnOnce()) { 10 func(); 11} 12 13fn main() { 14 let str = "string".to_string(); 15 let mut count = 10; 16 17 let func = || { 18 count += 1; 19 std::mem::drop(str); 20 }; 21 22 // FnMutではないのでコンパイルできない 23 take_fn_mut(&mut func); 24 25 // FnOnceなのでコンパイルできる 26 take_fn_once(func); 27}
このコードはtake_fn_mut(&mut func);
のところで以下のようなコンパイルエラーになります。
console
1$ cargo check 2... 3 4error[E0525]: expected a closure that implements the `FnMut` trait, but this closure only implements `FnOnce` 5 --> src/bin/main1.rs:17:16 6 | 717 | let func = || { 8 | ^^ this closure implements `FnOnce`, not `FnMut` 918 | count += 1; 1019 | std::mem::drop(str); 11 | --- closure is `FnOnce` because it moves the variable `str` out of its environment 12... 1323 | take_fn_mut(&mut func); 14 | ----------- the requirement to implement `FnMut` derives from here
エラーの内容
- クロージャが
FnMut
を実装していることが期待されているが、実際にはFnOnce
しか実装していない - クロージャは
FnOnce
を実装する(FnMut
ではない) - クロージャが
FnOnce
なのは、変数str
を環境(の匿名struct
)からメソッド本体にムーブアウトするから
先ほど示したように、例1の匿名型は以下のようになります。
rust
1struct MyFuncEnv<'a> { 2 count: &'a mut i32, 3 str: String, 4}
std::mem::drop
はself.str
の所有権を取るため、無名関数は第1引数にself
を取る必要があります(&mut self
や&self
ではだめです) そのため、このクロージャはcall_once(self, args: Args)
の実装を持つFnOnce
しか実装できません。
一方、例2のクロージャはFnOnce
に加えてFnMut
を実装します。そのため以下のように書き換えてもコンパイルエラーになりません。
rust
1// 例2の修正版 2fn main() { 3 let mut count = 10; 4 5 // mutを追加した 6 let mut func = || { 7 count += 1; 8 }; 9 10 // どちらもコンパイルできる 11 take_fn_mut(&mut func); 12 take_fn_once(func); 13}
クロージャの本体からstd::mem::drop
がなくなったために、所有権を取る必要がなくなり、FnMut
が要求するcall_mut(&mut self, args: Args)
が実装できるようになったからです。
最後にFnMut
だとfunc
にmut
が必要になる理由ですが、これはクロージャが匿名struct
であることで説明できます。現時点はnightly版のコンパイラ限定ですが、クロージャのstruct
とFnMut
などの実装を自分で書くこともできます。それを使うと例2は以下のように実装できます。(cargo +nightly run
で実行できます)
rust
1// `FnMut`などの実装を提供するには、現時点ではnightly版コンパイラで、 2// 以下の実験的なフィーチャをオンにしないといけない 3#![feature(fn_traits, unboxed_closures)] 4 5// 例2のクロージャの環境。countの&mut参照を持つ 6struct FuncEnv2<'a> { 7 count: &'a mut i32, 8} 9 10// FnOnceの実装 11// FnMutを実装するためには、まずFnOnceを実装しないといけない 12impl<'a> FnOnce<()> for FuncEnv2<'a> { 13 type Output = (); // クロージャの戻り値型 14 15 // call_onceを実装する。このメソッドはselfを取る 16 extern "rust-call" fn call_once(self, _args: ()) -> Self::Output { 17 *self.count += 1; 18 } 19} 20 21// FnMutの実装 22impl<'a> FnMut<()> for FuncEnv2<'a> { 23 // call_mutを実装する。このメソッドは&mut selfを取る 24 extern "rust-call" fn call_mut(&mut self, _args: ()) -> Self::Output { 25 *self.count += 1; 26 } 27} 28 29// この関数は引数にFnMutを実装するクロージャをとる 30fn take_fn_mut(func: &mut impl FnMut()) { 31 func(); 32} 33 34// この関数は引数にFnOnceを実装するクロージャをとる 35fn take_fn_once(func: impl FnOnce()) { 36 func(); 37} 38 39fn main() { 40 let mut count = 10; 41 42 // funcの実体は環境を表すstruct 43 let mut func = FuncEnv2 { 44 count: &mut count, 45 }; 46 47 // FnMutを実装するのでcall_mut(&mut self, ...)を呼ぼうとする 48 // &mut self(&mut funcと同じ)をするためにはfuncがmutでないとならない 49 func(); 50 51 // これらも問題なく呼べる 52 take_fn_mut(&mut func); 53 take_fn_once(func); 54}
func()
としたとき、このクロージャはFnMut
を実装するために、call_mut(&mut self, ...)
メソッドを呼ぼうとします。&mut self
は&mut func
と同じですが、それをするためには、func
がmut
の必要があります。
一方、FnOnce
の場合はfunc
の所有権を取るので、mut
は不要になります。その一方で、func
の値はメソッドにムーブしてしまうので、1回しか呼べなくなります。
投稿2021/05/02 04:23
編集2021/05/02 04:31総合スコア2046
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2021/05/02 07:56 編集
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2021/05/03 05:39